特定非営利活動法人 起点 理事長 中條 邦子 さん

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自立援助ホームの設立を実現

10代後半の若者たちにこそ、手厚い支援と見守りが必要と話すのは、特定非営利活動法人 起点 理事長を務める中條邦子さん。
中條さんは、昨年8月に念願の自立援助ホーム「L’espoir(レスポワール)」を江戸川区に設立した。
自立援助ホームとは、何らかの理由で、家庭に居場所のない義務教育を終えた15歳から20歳まで(状況により20歳以降も)の子どもたちを、生活、メンタル、就学、就労など、あらゆる面でサポートし、子どもたちの自立を援助する施設だ。中條さんは、就労前の一番大切な年代の女の子専用の自立援助ホームを区内で初めて作り、注目を集めている。

中條さんは、平成6年に江戸川区役所に児童指導職として入区。区内学童クラブやすくすくスクール、共育プラザ、本庁の健全育成課等の勤務を通して、幼児から高校生の様々な年代の子どもたちと共に、笑い、楽しみ、悩みを乗り越え、子どもたちに寄り添い続ける29年間を過ごした。その中で、中條さんは、恐怖や孤立の体験から本来持っている子どもらしさを出すことができずにいる子どもたちに出会い、家庭に居場所のない10代の子どもたちを支援したい、いつか、自立援助ホームをやりたい!と強い思いを抱いたと話す。
30代から児童養護施設退所後の子どもたちの支援について漠然と考えていたが、目の前の子どもたちの対応と業務に没頭し、20年の時が流れた。中條さんは、こんな理由でと思われるかもしれませんが、と話し始めた。「昨年4月に、18年間一緒に過ごした愛犬が亡くなってしまい、哀しみに暮れていましたが、自分ひとりの身だったらどんな生活でもやっていける、やりたかった自立援助ホームを立ち上げようと決心したんです。」と、その時の胸中を話してくれた。

自立援助ホームを立てる場所は、自分が生まれ育ち、役所生活も長い江戸川区内にと決めた。
NPO法人を立ち上げるにあたり、知人で、同じ思いを持つ2名の方に声をかけたところ、意気投合し、実現に向けて動き始めた。
法人名は「起点」と付けた。いつも子どもたちを起点に考えていきたい、幸せな人生はどこからでも始められ、起点はどこからでもよい、という中條さんの思いが込められた希望に満ちた名前だ。

Profile

特定非営利活動法人 起点 理事長 /社会福祉士、公認心理師
中條 邦子(なかじょう くにこ)さん

1969年江戸川区生まれ。法政大学法学部卒業。1994年、江戸川区に児童指導職として入区。学童クラブ、すくすくスクール、共育プラザに勤務。厚生労働省「令和4年度児童館における支援を要する学齢期児童の居場所づくり及び支援体制に関する調査研究」委員。2022年10月、特定非営利活動法人 起点を設立。2023年3月に江戸川区を退職し、同年8月、区内に「自立援助ホームL’espoir」を開設。施設長を務める。

不動産屋さんとの奇跡的な出会い

一番苦労したのは、物件探しだった。6人の個室があり、共同のダイニングやリビングのある物件はなかなか見つからなかった。そんな中、ある不動産会社の女性社長との奇跡的な出会いがあった。
中條さんが、自立援助ホームの設立理由と、物件のイメージを話している間、社長さんはずっと黙って話を聞き、大きくうなずいて、「わかりました。建てましょう!」とひとこと言ったという。社会貢献に高い志をもっている社長さんが、分け隔てなく子どもたちの未来を考える中條さんの熱い思いに共感してくれたのだ。
中條さんは、人生でこれほどラッキーなことは無かったとその時の心情を振り返る。
不動産業者の社長さんは、当初計画予定だったアパートの建築を取りやめて、自立援助ホームの建設を優先させてくれた。L’espoir(レスポワール)フランス語で「希望」「未来への期待」という意味の名前も社長さんが付けてくれた。子どもたちの未来が希望に満ちたものになるように、との思いが込められている。

子どもたちの部屋。シンプルながらもおしゃれで温かい印象を受ける。

いつも温かいぬくもりが感じられるお家に

明るい木目調のおしゃれな玄関は、誰をも心地よく迎え入れてくれる。リビングもおしゃれで広々とした空間。ソファでは子どもたちと職員が一緒にテレビを観たり、ゲームをやったりと団欒を楽しんでいる。少し奥に進むと、広々としたダイニングキッチンがあり、大きなテーブルが置かれている。食事をつくるのも食べるのも楽しくなるような空間だ。子どもたちから献立の提案があり、スタッフと一緒に料理作りを楽しむこともあるという。
地域の方からたくさんの海苔の差し入れがあった時、子どもたちが、海苔をふんだんに使った一番おいしい料理は何かと考えた結果、「海苔巻きを作りたい!」との声が上がり、スタッフと一緒に海苔巻きを作って食べたというエピソードも伺った。
リビング横の多目的室では、アイロンかけなどの作業をしたり、地域の方々を招いてカフェを楽しんだりセミナーを開くこともあるという。子どもたちにとって、人との交流はとても大切。地域の人たちとも仲良くなって、人間関係を豊かにしたいと中條さん。
2階の子どもたちの部屋は、カーテン、ベットカバー、デスクなど、10代の女の子の好む色合いでまとまっている。天井には、組み立て式のおしゃれな円形状のルームライトが付けられ、それらのひとつひとつに中條さんの愛情が込められているようだ。 

写真中央が中條さん。 そして、経理担当の篠田さん(後列左 男性)、 副施設長の前野さん(後列右 女性)、自立支援担当の髙橋さん(前列左 男性) 生活支援担当の山本さん(前列右 女性)。 この5名で運営している。

幸せな瞬間は、子どもたちの明るい笑い声

このホームを作って、どんな時に嬉しく思うかを伺うと、つらい思いをしてきた子どもたちが、このホームに住み、次第に心を開き、そして笑い声を上げる様になることが一番の幸せと、中條さんは笑顔で話す。最初は大人に対して猜疑心を持っている子もいるので、先ずは仲良くなり、信頼関係をつくることが大切なのである。

このホームのモットーは、「やってあげる」ことだと言う。「お弁当を作ってあげる。お誕生日会をやってあげる。お祭りに行くときの浴衣の着付けなど何でもやってあげる。大人にやってもらうことで、喜びや安心感が得られ、今度は、自分でやりたい、人にやってあげたいという気持ちが芽生えるはずなのです。」と中條さんは熱く語る。
明るい笑顔と笑い声の絶えない自立援助ホーム「L’espoir(レスポワール)」で過ごす子どもたちの将来が楽しみだ。

特定非営利活動法人 起点

2022年10月、困難な養育環境に育ち、生きづらさを抱える若者に対し、安心して過ごせる場を提供し精神的・社会的に自立できるように援助する事業を行うことを目的として設立。法人名の「起点」は、1つは、大人の考えや行政の事業を起点とするのではなく、いつもその子を起点に考えていきたい、2つ目は、幸せな人生はどこからでも始められる、起点はどこからでもよい。この二つの信念のもと、自立援助ホームの運営と学び支援に取り組んでいる。

03-6555-4609

home@kiten-hajimari.org

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