下平井水辺の楽校 代表/江戸川ムジナモ保存会 会長 中嶋 美南子さん

未来へつなぐ、自然との共生
今号の特集では、子どもたちへ自然と共生することの大切さを伝えようと活動するお二人を紹介します。その情熱あふれる取り組みにご注目ください。

目次

水辺からはじまる、自然と共生する地域づくり

「子どもたちが安全に、心から川遊びを楽しめるようにしたかったのです」。
「下平井水辺の楽校」を立ち上げた中嶋美南子さんは、ほがらかに語ってくれた。中嶋さんの活動はこれだけではない。「ムジナモ保存会」をはじめ、仲間たちと共に葛西海浜公園で「東なぎさクリーン作戦」の活動をはじめるなど、江戸川区の自然環境を守る取り組みを率先して行ってきた。その活動は、地域社会に大きな貢献をもたらしている。

Profile

下平井水辺の楽校 代表/江戸川ムジナモ保存会 会長
中嶋 美南子(なかじま みなこ)さん

昭和17年(1942年)江戸川区南小岩生まれ。江戸川区内の小学校教諭として長年勤務し、平成2年(1990年)には教頭(現在の副校長)に就任。平成15年(2003年)定年退職した後、江戸川区教育委員会教育研究所で勤務。その5年後には再び小学校で勤務し、現在は小学校理科支援員として理科実験のアシスタント業務に携わっている。生物多様性を大切にし、自然との共生を次世代へつなぐことを目指して活動している。下平井水辺の楽校代表、江戸川ムジナモ保存会会長、NPO法人えどがわエコセンター元副理事長。

教師になったきっかけは赤毛のアン

江戸川区小岩で育った中嶋さんは、四人姉妹の長女として昭和17年(1942年)に生を受けた。父親はすぐに出征し、母親が内職しながら育ててくれた。戦後の復興期、高度経済成長期を経験し、地域の成長を見守ってきた。都立高校、大学を出て、小学校教諭となったのは「赤毛のアン」の主人公の生き方に感銘を受けたからだという。教育を通じて他人の人生を良い方向へ導きたい、との強い意志を抱くようになった中嶋さん。生物学に興味を持ったのは、小学3年生の時の理科好きな担任教諭の影響で、実験を交えた授業がとても面白かったからだという。中学生の夏休み、自由研究で植物採集や押し花作りをしたことがきっかけで、「この植物の名前はなんだろう?」という純粋な疑問が、次第に自然への深い関心へとつながっていった。そして、中学生時代から始めた山登りでは、高山植物の美しさに惹かれていき、高校時代は山岳部に所属、季節ごとに咲く花々の移り変わりを楽しんだ。大学時代には、ワンダーフォーゲル部をつくり自然活動を大いに満喫していたそうだ。

「下平井水辺の楽校」は自然の教室

中嶋さんは、教員時代に荒川をより良い川にするための「えどがわく・荒川市民会議」に参加していた。その活動の中から荒川の河川敷を子どもたちが安全に楽しく遊べる場所にしたいという思いが芽生え、「下平井水辺の楽校」を立ち上げたという。荒川は約100年前、水害から地域住民を守るために作られた放水路。しかし、「危ないから行ってはいけない」と、川遊びを禁じる時代が続き、自然の中で遊ぶ文化が失われつつあるのが現状だ。

子どもたちが制作した、横断幕。

「自然の中で遊ぶことの喜びを子どもたちに知ってほしい。『下平井水辺の楽校』では、葦で作る葦笛や、ささ舟づくり、虫捕り、魚捕りなど、特別な遊具は必要とせず、自然そのものを遊びの対象として楽しんでいます」と、中嶋さんは目を輝かせながら話す。安全対策として、ライフジャケットの着用を必須とし、採集した生物は放すというルールを設けている。活動の拠点は、JR総武線南側の河川敷で、「下平井」という地名にちなんで名づけられた。子どもたちが作った看板も設置されている。子どもたちが成長し、今では活動を手伝う大学生として戻ってくることもあり、中嶋さんにとっては大きな喜びだという。また、活動開始前には必ずゴミ拾いを行い、自分たちが遊ぶ場所をきれいに保つ意識も育まれている。

発見の地で復活させたい~ムジナモ保存会~

NPO法人えどがわエコセンター創設時より活動に携わり、副理事長としても活動してきた中嶋美南子さん。その活動は、「自然共生社会づくり委員会」の設立にはじまり、「江戸川ムジナモ保存会」と「東なぎさクリーン作戦」の推進へと繋がっている。

ムジナモとは、植物学者牧野富太郎博士が明治23年(1890年)に、伊予田村(現在の北小岩4丁目)の江戸川河川敷で発見し、ムジナ(タヌキ)のしっぽに似ていることから名付けた貴重な食虫植物だ。「江戸川ムジナモ保存会」は、一時は絶滅したムジナモを再びその地に根付かせることを目指している。埼玉県羽生市から株を譲り受け、保存会の会員、約40名がムジナモを育てている。「いつか、発見の地、小岩にかえしたい」という熱い思いを胸に、中嶋さんたちは活動を続けている。小岩菖蒲園の隅に「ムジナモ発見の地」という記念碑があり、小岩菖蒲園祭りのときにはムジナモの展示も行っている。

未来へとつなげていきたい~東なぎさクリーン作戦~

「東なぎさクリーン作戦」は、中嶋さんが植物調査として葛西海浜公園の東なぎさに行ったことがきっかけだった。ラムサール条約登録地で、自然保全のため普段は立ち入ることができない場所だが、川や海からの漂着ゴミでその汚染状況はひどいものだったという。ペットボトルや発泡スチロールをはじめ、冷蔵庫や車のタイヤなどの大型ゴミまで散見された。「これらすべてが人間の行いによるもので、人間が汚した環境は私たち自身の手で取り戻さないといけない」との思いで中嶋さんが仲間と一緒にはじめた運動が、この東なぎさクリーン作戦である。この活動は、今はえどがわエコセンターが主導し、毎年、子どもから大人まで多くの人たちが参加している。清掃活動の後には、鳥類、底生生物、植物の自然観察会を行っており、生態系を守ることの重要性を学ぶことができる。植物は中嶋さんの担当で、元気に咲き誇るハマヒルガオや赤い実を付けるクコといった植物を紹介するとともに、本来はきれいな花を咲かせるハマベノキクが減少している現状についても解説している。

中嶋さんは今、活動に携わる人々が高齢化していく中で、一人でも多くの次世代の後継者に育ってほしいとの期待を持っている。「幼い頃から自然と触れ合う機会を増やし、生物多様性への理解を深めてほしい。人間も自然の一部なのだから、必ず、自然と共生できるはずです」と中嶋さん。その願いが実を結び、この活動が未来へと受け継がれていくことを心から応援したい。

下平井水辺の楽校

荒川のJR総武線鉄橋下流右岸の干潟と河川敷の池を利用して、主に子どもたちを対象に開催されている。活動内容は、虫とり、カニとり、植物採取、干潟でのシジミ採り、ヨシ笛作り等、「自然のもので遊ぶ」を軸に多岐にわたる。

場 所:河川敷(2本のやなぎの木が目印)
JR総武線 平井駅より徒歩15分
活動日: 第2日曜日10:00~12:00(12月・1月・2月・3月を除く)
電話番号:090-1544-0495
WEBサイト:https://shimohirai.blogspot.com/

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