江戸川区鹿骨にある鹿骨東小学校は、今年で50周年を迎える。2025年度(令和7年度)は、児童465名の17学級、教職員72名が在籍し、地域に根差した教育を展開している。掲げるスローガンは「笑顔・元気・創造力のあふれる『一人も取り残さない』魅力ある学校づくり」。この言葉には、すべての子どもが自分らしく輝き、安心して学びに向かえる環境をつくりたいという中田校長の思いが込められている。
「勉強がわからないと、学校に行きたくなくなる」という課題に真正面から向き合い、「わかる」「できる」を実感できる授業づくりや、教室に上がれない児童の居場所を支えるエンカレッジ体制など、児童一人ひとりの可能性を丁寧に引き出す取り組みが進められてきた。こうした工夫により、学校が子どもたちにとって、自然と足を向けたくなる場所となり、不登校ゼロ(2024年度)という成果にもつながっている。

特色ある取り組みとして注目したいのが、創造力や主体性を育む「ふるさと学習」と、地域や国を超えて人とつながる「オンライン交流」だ。いずれも“本物に触れる体験活動”として位置づけられ、子どもたちの学びを豊かにしている。
50周年の節目を迎えた鹿骨東小学校。地域と共に歩みながら、次代を担う子どもたちを育む教育の取り組みをご紹介する。
総合的な学習「オンライン交流」
~地域と国を超えてつながる学び~
鹿骨東小学校の6年生は総合的な学習の一環として国内外の学校とオンラインでつながり、互いの学びを深める取り組みを続けている。
「気仙沼小学校、大杉第二小学校との交流」

宮城県の気仙沼小学校と、江戸川区の大杉第二小学校は、2021年度(令和3年度)から毎年定期的にオンライン交流を行っており、学校紹介やSDGsをテーマに、互いの学びを発表し合っている。特に、海と共に生きる気仙沼の児童による防災への取り組みには、新たな視点を得る貴重な学びとなっており、地域の違いを超えて互いの理解を深める有意義な体験となっている。今後も継続していくことで、さらに豊かな学びが広がっていくことが期待される。
「ベトナムランビンの小学校との国際交流」
NPO法人CSRスクエアーの宍戸代表による講演を通じて、ベトナムやラオスの子どもたちが、厳しい生活の中でも、瞳を輝かせて学ぶ姿を知った子どもたちは、「人の役に立ちたい!」という思いから、SDGs募金活動を主体的に始め、約2週間にわたり取り組んだ。その結果、43,428円が集まり、宍戸先生を通じてベトナムの子どもたちに大型テレビを寄贈した。オンライン交流では、現地の子どもたちから感謝の言葉が届けられ、支援の達成感とともに、自己肯定感や他者への思いやりを育む貴重な経験となっている。



地域人材に支えられた「ふるさと学習」では、朝顔学習、和凧、花の寄せ植え、組子のコースター、江戸扇子、しめ縄、江戸風鈴の絵付けなど、地域の自然や伝統文化に触れる体験活動が継続しています。また令和2年度からは社会問題について、調べ考え行動するSDGs活動にも取り組んできました。SDGs募金等、人の役に立つ活動が子どもたちの自己有用感を高め、大杉第二小、気仙沼小、ベトナムの小学校とのオンライン交流やベトナム文化交流体験などを通して、子どもたちの視野はふるさと鹿骨から未来、そして世界にも広がっています。
鹿骨東小学校 中田 伸代 校長先生
「ふるさと学習」~本物に触れる学び~
鹿骨東小学校では、地域の歴史・文化・自然・伝統に親しむ「ふるさと学習」に力を入れている。1年生から6年生まで全学年が、学年ごとに異なる体験を通して、地域の魅力を肌で感じる学びが展開されている。和凧作りや花の寄せ植え、組子細工、江戸扇子づくり、しめ縄づくり、江戸風鈴の絵付けなど、地域の職人による本物の技術に触れることで、子どもたちはふるさとへの誇りと地域とのつながりを育んでいる。
資源を活かし、循環型社会を学ぶ「米プロジェクト」
5年生は、資源を無駄なく活かす学びとして「米プロジェクト」に取り組んでいる。江戸川区の姉妹都市である山形県鶴岡市から、毎年苗を譲り受け、校内の田んぼで児童たちが自ら田植えを行うことからはじまる。秋には収穫した米を脱穀・精米し、家庭科の授業では、お鍋で炊いたごはんと味噌汁を自分たちで調理して味わう。こうした体験を通じて、食の大切さや自然の恵みへの感謝の気持を育んでいる。この取り組みは単なる農業体験にとどまらない。児童は、ふるさと学習で「しめ縄づくり」も体験する。収穫後の稲わらの一部をしめ縄づくりに活用し、地域文化への理解を深める学びにもつながっている。米づくりからしめ縄づくりまで、資源を余すことなく活用するこのプロジェクトを通して、児童たちは循環型社会の仕組みや暮らしの知恵について、楽しく実践的に学んでいる。

伝統文化で地域とつながる学び「江戸扇子づくりと御神楽(みかぐら)体験」
御神楽とは、もともと宮中で神に捧げる神楽の儀式のことで、鹿骨地域では、五穀豊穣を祈る大切な行事として長く受け継がれてきた。鹿骨東小学校では、この伝統文化を学びに取り入れ、44年間にわたり、継承活動を続けている。4年生は、地元の江戸扇子職人・松井宏さん指導のもと、御神楽で使用される「江戸扇子」づくりに挑戦。職人技に触れながら、ものづくりの楽しさと地域文化の奥深さを体感する。5年生になると、自作の扇子を手に、運動会で御神楽を披露。6年生から踊りを教わりながら、舞の技を磨いていく。6年生はその技をさらに極め、下級生の憧れの存在となっている。こうした学びを通して、子どもたちは地域の人々と触れ合いながら、御神楽の技や心を受け継いでいく。鹿骨東小学校の取り組みは、文化の灯を未来へとつなぐ、地域と子どもたちのかけがえのない歩みである。




この地域にはかつて畑や田んぼが広がり、五穀豊穣を願う御神楽の文化が根付いていました。その伝統を鹿骨東小学校が守り続けている姿勢は、本当に立派なことだと思います。 地場産業にも目を向けていただき、江戸扇子づくりを通して協力できることを嬉しく思います。校長先生が代わっても、子どもたちが本物に触れる機会を守り続けているのは素晴らしいことです。ものづくりの楽しさや伝統への関心が、子どもたちの中に育っていってくれたら嬉しいです。
江戸扇子職人 松井 宏さん




